交通流の数理モデルから分かることは、車の密度(一定の長さに入っている 車の数)が、ある値を越える、別の言葉で言うと車間距離が一定の値より短く なると渋滞が発生するということです。車間距離一定の車の列が走るとき、そ の車間距離が大きければ、つまり密度が低ければ、各車の速度が多少ばらつい て、前の車との車間距離に変化が起こっても、渋滞が発生することはありませ ん。車の数が少なければ渋滞しないという、当り前のことです。
しかし、車間距離が一定の値よりも短くなる、つまり密度がある値を越え ると、車間距離一定の一様な流れは不安定となります。その不安定な状態で、 各車の速度が少し変化することによってできる車間距離のばらつきは、車の進 行方向と逆向きに成長しながら伝わり、密度の波となります。これが、渋滞を 引き起こします。 つまり、密度が高く、車がほとんど停止した部分と、密度が 低く、車が走っている部分が、交互に現れる密度の縞模様ができます。これが 渋滞です。トンネルや交通事故などは、密度を上昇させる役割があるだけで、 渋滞の原因そのものではありません。
重要なポイントは、密度の上昇とともに、じわじわと渋滞が発生するわけ ではなく、ある車間距離より短いと急に発生することです。物理の言葉では、 相転移と言います。
このことを理論やシミュレーションだけでなく、実験でも示そうと、円周 230メートルのコースを使って実験(実験そのものは2003年に岐阜県の中日本自 動車短期大学のグランドで行いました)をしました。これは、名古屋大学、中 日本自動車短期大学、大阪大学、愛知大学、名城大学、東京大学、そして佐賀 大学の研究者からなるチームの実験です。本物の自動車を使って交通渋滞をつ くり出す、我々のこの実験の論文の発表にあわせて、メディアで紹介されてい ます。少し専門的な内容が知りたい方は、アブストラクトだけでも原論文を見 てください。参考文献はこちら。